AIを使っているつもりで、実は成果につながっていない状態のことを「AIバカ」と呼びます。この記事では、すでに知られている調査バカ・パワポバカ・壁打ちバカという3類型に、4つ目の類型「提案バカ」を加えて整理し、AIを鵜呑みにせず正しい答えに辿り着くための”ずらしの視点(Deep-shifting)”について解説します。
【結論】
AIによって作業能力が拡張されても、本人の能力そのものが上がったわけではありません。この構造は、調査バカ・パワポバカ・壁打ちバカのすべてに共通しますが、二次情報を切り貼りしただけの提案書を自社独自の戦略であるかのように提示してしまう「提案バカ」にも、まったく同じ構造が当てはまります。AIの回答をそのまま鵜呑みにすると、もっともらしい二次情報の集積に留まり、正しい答えに辿り着けないことがあります。これを防ぐ鍵が、AIが出しやすい一般的な答えから意図的に視点をずらしていく”ずらしの視点(Deep-shifting)”です。
AIバカとは何か:3つの類型のおさらい
AIバカとは、AIを使っているつもりで実際は成果につながっていない人のことです。
代表的な3類型を振り返っておきます。
調査バカは、AIでやたらと調べるものの、出てくるのはネット記事やまとめサイト、ブログ記事、他人の意見といった二次情報ばかりで、情報の深みがないタイプです。それに気づかず、AIを万能の調査ツールとして使い続けてしまいます。本当に肝心なのは、現場や当事者へのヒアリング、自分自身の観察や体験から得られる一次情報です。
パワポバカは、AIがパワポを自動生成できることに高揚感を覚え、資料を大量生産して量に自己満足してしまうタイプです。見た目が微妙で仕上がりが粗いにもかかわらず、重要なプレゼンでも無加工でそのまま使ってしまいます。本当に大事なのは、ストーリーや構成の磨き込み、デザイン・図表のクオリティ向上、伝わる言葉への調整という、人による一手間の仕上げです。
壁打ちバカは、AIが良い壁打ち相手になること自体は事実であっても、壁打ちする本人の頭の中がスカスカだと、AIと壁打ちしてもスカスカがスカくらいにしか進化しないタイプです。それに気づかず、やたらとAIと壁打ちして時間を弄してしまいます。本当は、知識のインプット、経験・事例の蓄積、仮説を持つ力の強化にこそ、時間を使うべきです。
4つ目の類型「提案バカ」
提案バカとは、二次情報を切り貼りしただけのAI活用提案書を、自社独自の戦略であるかのように提示してしまう人のことです。
ネットや他社の事例をAIにまとめさせただけの「AI活用提案書」を、さも独自の戦略であるかのようにクライアントへ提示する。これが提案バカの典型的な行動です。いわゆる「横流しバカ」とも呼べます。
提案バカは、クライアントの現場にある暗黙知や泥臭い一次情報を理解していないため、施策がすべて一般論になってしまいます。 どこかで見たような施策の寄せ集めが、もっともらしい体裁で提示され、結果として現場には混乱と、成果に結びつかない「ブルシットジョブ」だけが残されます。
なぜ提案バカになってしまうのか
提案バカが「バカ」の本質に陥る理由は、他の3類型と同じく、彼ら自身の元手、つまりビジネス理解や経験そのものが乏しいからです。
第一に、審美眼の欠如があります。AIが生成した「もっともらしいビジネスプラン」の実現可能性やリスクを見極める目が、自分自身に備わっていません。
第二に、レバレッジの誤用があります。自分の知識不足を補うためにAIを使い、出力された薄っぺらいアウトプットを、検証や加工をせずそのままクライアントに横流ししてしまいます。
第三に、手段の目的化があります。「AIを使って何かやる」ということ自体がゴールになってしまい、それが本当に経営課題の解決につながるかという本質から目を背けてしまいます。
結局のところ、提案バカもまた、「AIを使っている自分、すごい」という全能感の罠にハマっている一人にすぎません。
4類型に共通する構造:AIはレバレッジ装置であって元手を生み出す装置ではない
調査バカ、パワポバカ、壁打ちバカ、そして提案バカ。この4類型に共通するのは、AIによって作業能力が拡張されたことと、本人の能力そのものが上がったことは、まったく別物だという事実です。
AIはレバレッジ装置であって、元手を生み出す装置ではありません。成果を生む本当の元手は、一次情報(現場・当事者・自分の観察や体験)、審美眼(構成・デザイン・言葉を磨く力)、そして知識・経験・仮説力(問いの質と思考の深さを生む土台)です。これらの元手が薄いままAIを使うと、薄いものが大量・高速に生産されるだけになります。
AIを鵜呑みにすると正しい答えに辿り着けない理由
AIの回答をそのまま鵜呑みにすると、もっともらしい二次情報の集積に留まり、正しい答えに辿り着けないことがあります。
AIは、与えられた問いに対して、もっとも「それらしい」「平均的に妥当な」答えを返すことに長けています。しかしこれは裏を返せば、AIの回答は多くの場合、既存の情報の重心、つまり誰もが考えつきやすい一般論に寄っていくということでもあります。ここに気づかず、最初に返ってきた答えをそのまま受け入れてしまうと、結果として調査バカや提案バカと同じ轍を踏むことになります。AIは時に、もっともらしい形で読み手をミスリードしてくる存在でもあるのです。
抜け出す鍵は”ずらしの視点(Deep-shifting)”
ずらしの視点(Deep-shifting)とは、AIが出しやすい一般的・平均的な答えから意図的に視点を外し、現場や一次情報に基づく問いを重ねていく思考法のことです。
AIの最初の回答を鵜呑みにするのではなく、「その一般論は、この現場の実態と本当に合っているか」「あえて逆の前提を置いたらどうなるか」「当事者はこの提案をどう感じるか」といった形で、意図的に視点をずらしながら問い直していく。この一手間があるかどうかが、AIバカと、AIを本当に使いこなせている人との分かれ目になります。
Deep-shiftingは、AIの出力を疑うための技術であると同時に、自分自身の一次情報・審美眼・仮説力という元手を鍛える訓練でもあります。AIに問いを重ねるたびに、自分の中の元手そのものが磨かれていくという構造です。
まとめ
AIバカには、調査バカ・パワポバカ・壁打ちバカという3類型に加えて、二次情報を切り貼りしただけの提案を独自の戦略のように装う「提案バカ」があります。共通するのは、AIによって作業能力が拡張されても、本人の元手そのものは上がっていないという構造です。AIの回答をそのまま鵜呑みにすると、もっともらしい二次情報の集積に留まり、正しい答えには辿り着けません。AIが出しやすい一般論から意図的に視点をずらしていく”ずらしの視点(Deep-shifting)”こそが、AIバカから卒業するための鍵になります。
本記事は、20年以上の経営顧問・組織づくりの現場経験と、企業のAI活用支援に携わってきた知見をもとに執筆しています。
AIが出す「もっともらしい答え(形式知)」をそのまま受け取るだけでは、現場の課題は解決しません。私がずらしの視点という考え方を提唱しているのは、AIというレバレッジ装置を本当に使いこなすには、自分自身の一次情報・審美眼・仮説力という「元手(暗黙知)」を磨き続けることが欠かせないという理念があるからです。
なお、特定のAIツールや提案手法を推奨するものではなく、経営判断のための情報提供を目的としています。
よくある質問
Q. AIバカとはどのような人のことですか?
A. AIを使っているつもりで、実際は成果につながっていない人のことです。調査バカ・パワポバカ・壁打ちバカ・提案バカという4つの類型があります。
Q. 提案バカとはどのようなタイプですか?
A. ネットや他社事例といった二次情報をAIに切り貼りさせただけの提案書を、自社独自の戦略であるかのようにクライアントに提示してしまうタイプです。
Q. なぜ提案バカになってしまうのですか?
A. 提案内容の実現可能性を見極める審美眼の欠如、知識不足を補うためのAI出力の横流し、AIを使うこと自体の目的化という3つの理由が重なるためです。
Q. AIバカの4類型に共通する構造は何ですか?
A. AIによって作業能力が拡張されたことと、本人の能力そのものが上がったことは別物だという点です。AIはレバレッジ装置であり、元手を生み出す装置ではありません。
Q. AIを鵜呑みにせず正しい答えに辿り着くにはどうすればよいですか?
A. AIが出しやすい一般的な答えから意図的に視点をずらし、現場や一次情報に基づく問いを重ねていく”ずらしの視点(Deep-shifting)”が有効です。