はじめに:世代間ギャップは「恒例行事」だったはずが
企業はいつの時代も、前世代と新入社員世代のギャップに頭を悩ませてきました。団塊世代、新人類世代、就職氷河期世代、ゆとり世代。価値観や仕事観の違いはありつつも、時間をかけて相互理解を進めれば、最終的には組織として機能してきたのがこれまでの歴史です。
ところが近年、人事担当者から聞こえてくる声の質が明らかに変わりました。
「理解し合えば何とかなる、という段階ではない」
Z世代、そしてこれから本格的に社会に出てくるα世代は、これまでの世代交代とは性質が異なります。人材育成の前提条件そのものが、静かに、しかし確実に崩れ始めています。
デジタルネイティブからAIネイティブへ
Z世代・α世代は、単なるデジタルネイティブではありません。検索すれば答えが出る、動画を見ればやり方が分かるという環境で育ち、さらにAIが“思考の補助輪”として常にそばにある世代です。
欲しい情報は自分で探すものではなく、最初からそこに「提示される」もの。
この環境は効率的である一方、次のような特徴を生み出しています。
- 試行錯誤を通じた応用力が育ちにくい
- 失敗耐性やレジリエンスが低い
- 正解が見えない状況で思考が止まる
会社で成長したいという動機も、必ずしも強くありません。成長するなら、会社でなくてもいい。学習は個人で完結できる。そうした感覚が、当たり前のように内面化されています。
帰属意識の低下と「辞めることへの心理的ハードル」
Z世代・α世代は、会社に人生を預けるという発想をほとんど持ちません。転職エージェント、退職代行サービスの存在は、その象徴です。
「合わなければ辞める」「自分は正しい」
それは合理的な判断であると同時に、企業側から見れば大きな不安定要素でもあります。帰属意識が低いというより、そもそも帰属するという概念が希薄なのです。
この状況下で、従来型の
- 根性論
- 長期目線の育成計画
- 暗黙知による指導
が機能しなくなっているのは、ある意味当然と言えるでしょう。
「新人は使えない」という嘆きの危険性
世代間問題が起きると、必ず出てくる言葉があります。
「最近の新人は使えない」
過去の世代であれば、この言葉の裏には「まだ慣れていないだけ」「理解が進めば伸びる」という前提がありました。しかし、Z世代・α世代の場合、その前提が必ずしも成り立ちません。
デジタル環境に最適化された脳は、反復的な学習や抽象的な思考を苦手とする傾向があります。加えて、YouTubeやTikTokといった短尺・刺激重視のコンテンツに日常的に接してきた結果、
- やってはいけないことへの心理的ブレーキが弱い
- 公私の境界が曖昧
- 組織ルールを軽視しがち
といった問題も顕在化しています。
海外でも進む「若年層の排除」と社会問題化
この問題は日本特有のものではありません。アメリカでは、若年層が企業に採用されず、親と同居したまま就労しないケースが増え、社会問題として取り上げられています。
企業側は「採用しても戦力にならない」「リスクが高い」と判断し、若者を雇わない。一方で若者は、社会に居場所を見つけられず、引きこもる。
これは、人材育成の失敗が社会全体に波及した一例です。
人手不足の本当の原因はどこにあるのか
少子化、人手不足、採用難。
これらは事実ですが、もう一つ見落とされがちな視点があります。それは、労働人口が「消えた」のではなく、「別の場所に流れた」という現実です。
- YouTuber
- 転売ビジネス
- 情報商材販売
- インフルエンサー
- フリーランス(一人起業家)
これらの多くは、社会全体の生産性という観点では、必ずしも高付加価値とは言えません。しかし、若者にとっては即金性があり、組織に縛られない魅力的な選択肢です。
結果として、企業は「誰でもいいから採用したい」という状態に追い込まれていきます。
そのままでは、企業は確実に弱体化する
ここで目を背けてはいけない現実があります。
使えない人材を抱え続けることは、
- 生産性の低下
- 優秀層の疲弊と離職
- 組織文化の劣化
を招きます。
人材不足を理由に、育たない人材を温存することは、長期的には企業の体力を削る行為に他なりません。
リスキリングか、リストラクチャリングか
これからの人事に求められるのは、情緒的な平等ではなく、戦略的な選別です。
- 伸びる可能性がある人材には、徹底したリスキリングを
- 適性が合わない人材には、配置転換、もしくは組織外への移行を
人材リストラクチャリングは冷たい言葉に聞こえるかもしれません。しかし、本質は「人を切ること」ではなく、「人と組織の関係を再設計すること」にあります。
人材育成は「全員一律」では成立しない
Z世代・α世代に対しては、
- 目的と評価基準の明確化
- 短期フィードバック
- データに基づく能力可視化
が不可欠です。曖昧な期待や精神論は、もはや通用しません。
AIを活用したスキル診断、適性分析、学習進捗の可視化は、人事の負担を減らすだけでなく、若手人材にとっても「納得できる成長環境」を提供します。
人事担当者に求められる覚悟
これからの人事は、
- 育てる人を見極め
- 育て方を変え
- 育たない現実とも向き合う
という難しい役割を担います。
しかし、それを避け続ければ、組織は確実に衰退します。
人材育成、リスキリング、人材リストラクチャリングは、もはや選択肢ではありません。企業が生き残るための前提条件です。
人事は「優しさ」だけでなく、「設計力」が問われる時代に入っています。
その覚悟こそが、これからの企業価値を左右するのです。


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